群馬県立太田産業技術専門校 金指義仁校長・磯佳五溶接指導員に聞く 溶接技能の魅力と課題
金指義仁校長に聞く
私自信、溶接を学び、溶接の指導員となったため、溶接畑の出身だ。
溶接は、いうまでもなく魅力的な技能だ。指導員として、深く溶接技能に精通するようになると、その面白み、達成感、奥深さなどが更に理解できるようになった。
一方で近年、「学生には溶接の魅力が響きにくい」という課題も感じている。
例えば、溶接を初めて目にした学生から「面白そう」と言われるケースは多いのだが、産業技術専門校の溶接科の申し込み数が満席になるわけではない。技能の世界は中規模以上の企業のように、何年間勤めれば係長、その後は課長、その後は部長になるといった、キャリアパスが明確化しにくいのだ。
つまり、溶接士を志望する学生が少ないといわれる現在、溶接界に必要なのは、ロールモデルではないだろうか。
私が提案できる一つのロールモデルは、「産業技術専門校の指導員になること」だ。
何故なら、指導員は一定の技量がないと務まらない仕事である。
また、続けることで自身の溶接技能は磨かれていき、指導した学生が明確に100人、500人、1000人と目に見えて増えていく。
卒業生が県内企業に就職し、溶接士として活躍する姿を見る回数が増え、自身の仕事の成果が見えやすい。加えて、産業技術専門校の指導員は、比較的、キャリアも描きやすい。
昨今の溶接界は、溶接士は不足しているが、溶接の指導員も不足しているのだ。
学生に伝えたいのは、「うさぎと亀の童話」は真実だということ。
溶接はセンスが良ければ、1度2度見ただけで、一定精度の溶接ビードを引くことができる学生もいる。
しかし、上達には工夫することが欠かせないため、センスが良い学生よりも、真面目に向き合った学生の方が結果を残す現場を何度も目にしている。
溶接技能は努力が報われる、素晴らしい技能である。また、身に着けた技能は必ず身を助ける日がくる。
溶接を指導するにあたって大きな課題は、目に見えないことだ。
一瞬の判断で全てが決まる溶接だがが、強烈なアーク光で直視できないため、作業前と溶接作品を見た後という二つのポイントでしか指導することができない。
加えて、溶接は技能者の勘所に依存する部分が大きいため、言語化することが難しい。
だからこそ、溶接指導員は「手本を見せる」ことが常にできなくてはならない。
学生が仕上げた溶接作品を見て、アドバイスするとともに、手本を見せることでしか、指導は完遂しない。プレイヤ―であり監督である溶接指導員の仕事は奥が深い。
溶接の魅力は奥が深いことにあると考えている。おそらく一生をかけるだけの奥深さが溶接にはある。
私は、溶接指導員として、常に溶接の知識と技術の両方を追い求め続けることができる職務内容に魅力を感じている。
今から溶接士を志す人に伝えたいのは、安心して飛び込んできて欲しいということ。
奥深く、極めがいのある技能であると伝えたい。