「パパは刀鍛冶、私は溶接士」 群馬県立高崎産業技術専門校(溶接エキスパート科) 小池千恵子さん
溶接に触れた時に多くの人は「楽しい」「面白い」と話す。
しかし、「どれくらい面白いのか」を尋ねると、正確な回答が返ってくることが多いとは言えない。
そんな中、溶接の魅力に惹かれ、群馬県高崎市にある県立産業技術専門校「溶接エキスパート科」で、溶接を指導する道を選択した小池千恵子さん。
今回のWelding Mateでは「溶接は、『仕事として携わりたい』と思えるほど面白い」と回答する小池さんと、小池さんが思う溶接の魅力を紹介する。
「え!鬼滅の刃?」
父の仕事の話になると、決まってこの反応。よく私の知人が目を丸くします。
「違うってば、ただの職種のはなし」
とうに慣れっこですが、世間では「パパは刀鍛冶」という文言が、それだけ、パワーワードのようです。
現在、私が舞い散る火の粉の中で溶接作業に明け暮れていることを思えば、火花が舞い散る職場で金属と睨めっこする父の後ろ姿は、人生に大きな影響を与えてくれていたのだと思います。
私が溶接士になることを決めたのは2015年。
勤めていた会社を辞めて、群馬県立高崎産業技術専門校溶接エキスパート科(当時は高崎産業技術専門校メタル技術科)に入学した時です。
子供の頃から「おてんば」と言われてきた性格もあり、私はデスクワークよりも体を動かす仕事の方が性に合っていたようです。
2015年に溶接技能を学び、2020年からは溶接を学び舎である群馬県立高崎産業技術専門校溶接エキスパート科で、溶接の指導員として勤務する道を選びました。
溶接の魅力は、目に見えて自分の腕が上達していく感覚。
鋼板のつなぎ目の美しさを追求し、繰り返し練習することで、技術は徐々に上達し、仕上げの強度も増していきます。
接合する鋼板の間隔や削り具合、誰が溶接したかによって仕上がりは変化します。繰り返し0.1㎜単位で調整していくことで、自分にあったやり方を追究する作業は、研究職にも近い。
生徒には技術力が着実に向上する感覚を楽しんで欲しいと思っています。
私が生徒に対して、特に意識して指導しているのは「基本に忠実に」です。
ビードを引く作業自体は、個々人の感覚が大切ですが、「ルート間隔を測り、丁寧に仕上げてから作業にあたる」「仮付け溶接でも手を抜かない」など、多少面倒でも、しっかりと準備すれば、仕上がりには大きく差が出ます。
私が担当している溶接エキスパート科は、2年課程で1学年定員20人のクラス。
溶接が上手な生徒について質問されることが多いのですが、持論としては「1回ごとに工夫する生徒」の成長はとても早いです。
電流値、トーチの角度、手を動かす速さ、ルート間隔など、1回ごとに、条件を変えて試してみることで、自分にとってベストな溶接条件を把握することは技術力の成長を加速させます。
男女といった性別での上達の違いについても、よく質問されますが、性別よりも「細かい作業を根気よく続ける」ことができる性格が重要なのではないでしょうか。
男性でも女性でも、同じだけの可能性が溶接士にはあると思っています。
当科は2年という在籍期間があります。
つまり、最初の1年は溶接に明け暮れて、次の1年で、溶接の種類や、向き不向きを理解してから就職活動にあたることができます。
また、多くの場合、努力した生徒は、卒業時に20個程度の資格を取得していることが想定されるため、途中で「本当に溶接士になりたいのか」と悩む学生であっても、将来の幅を広げることができるのではないでしょうか。
溶接作業は遮光面で極端に視野が狭まるため、落ち着いて集中しながら作業したい人にはうってつけの作業です。
私がそうしたように、多くの生徒が、落ち着いて将来をつかんで欲しいと思います。