溶接体験で深まる営業トーク (株)葵製作所 営業部 阿久津千夏さん
溶接をはじめ、技能は一つ磨くだけで10年間を費やしてしまうものが少なくない。そのため、多くの製造事業所では、事務職や営業職のスタッフは、技能を学んだ経験がなく、縦割りで事業が構築されている。
そんな中、東京都八王子市で溶接・板金を手掛ける葵製作所(長谷川薫社長)では、積極的に技能伝承を行っており、ユニークな点は、事務職や営業職も「溶接技能に触れる」ことだ。
同社の技能伝承法の一つとして注目を集める「技能向上プロジェクト」に参加した、営業部の阿久津千夏さんは、ステンレスのティグ溶接に挑戦。「営業活動に役立つ実践的な知識を身に着けた」という。
そんな阿久津さんに技能向上プロジェクトと、溶接事業所に就業した理由など、話を聞いた。
営業職として、日々多くの取引先の工場長や社長と話す機会があります。
その際に、技術的な質問に即座に対応できるようになった時に、自分の成長を実感することができました。特に先日、ある工場長からアルミ溶接における板厚について質問を受けた際、適切な板厚を提示することができたのが自信になりました。
成長できたのは、営業活動だけでなく、溶接をはじめとした、製造を体験することができる「技能向上プログラム」に参加していることが大きいと感じています。
ティグ溶接に挑戦する阿久津さん
このプログラムは、長谷川社長がテーマを定めて、設計・曲げ・切断・溶接・研磨といった複数の工程で、スタッフが独自の技能を生かして進めているものです。製造スタッフだけでなく、営業職や事務職も参加して、製造された構造物は社内で実用化されます。
今回は、「狭いところで邪魔にならないスタイリッシュな傘立て」が課題になり、営業部の私も製造に参加。
ステンレスを素材としたティグ溶接を体験し、美しい外観と高い接合強度を求められることがどれだけ難しいかを痛感しました。
課題であるスタイリッシュな傘立て試作
特に、溶融しすぎるとすぐに穴があいてしまうことには、舌を巻きました。ですが、「この体験は営業トークの質を上げてくれる」と感じています。
当社の魅力は複数あるのですが、志望した理由は、「ホームページでの情報提供が充実していたから」です。
特に、同年代の技能者が手掛けている構造物を紹介する動画や、長谷川社長自らが溶接に挑戦する動画を見て、会社の雰囲気や、働く人々の姿が具体的にイメージできました。
特に長谷川社長が溶接に挑戦し、上達する様子からは、楽しそうな職場の雰囲気が伝わり、応募することを決めました。
仲良しの阿久津さん(左)と長谷川社長(右)
技能者として応募したのですが、長谷川社長から「営業職として、事業全体への理解を深めながら技能と付き合っていく道」の提案を受けました。
営業職は、目に見ることができない「溶接士の勘所」を、どのように相手に説明するかが鍵になります。
今後も知識と経験を活かして、営業活動を通じ、溶接の魅力を多くの人に伝えていきたいと思っています。