全員が溶接士戦略で差別化を図る! 江渕工業所(株)の事業戦略を調査

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 事業の差別化に溶接技能を採用

ものづくりに関わらず、自社の魅力を、的確に明確化・差別化することは多くの企業にとって喫緊の課題だ。

そんな中、注目されているのが溶接作業に従事する・しないに関わらず、「全員が溶接士」を謳う兵庫県姫路市の溶接事業所、江渕工業所株式会社(江渕修社長)である。同社では、昨年の5月に社員全員が溶接資格を取得し、社員全員が溶接士となった(表紙画像は、全員溶接士を記念して会社から金一封が出た時の記念写真)。

今回のWelding Mateでは、そんな超溶接特化戦略を採用している同社の戦略と溶接事業を取材した。

 事務職も溶接士に

江渕工業所への依頼は、食品工場、食品流通の工場などから舞い込む洗浄機部品が多い。

そのため、江渕工業所で取り扱う素材は、食品などが傷まないように、耐食性が高いステンレスが採用される場合が多い。同社では約6割がステンレス、残りが鋼、アルミの依頼となる。

サイズは2m以上の大型構造物の依頼が多く、板厚は1㎜~3㎜と比較的薄い。同社では図面の作成から、切断、曲げ、溶接といった一連工程をワンストップで対応することが可能だ。

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左:大型ステンレスを溶接する様子
右:江渕工業所の工場内観


そんな同社で、近年注目を集めているのが「社員全員が溶接資格を取る」という溶接特化戦略だ。

同社では、溶接に関わることがない他部署の未経験者や、ベトナム人技能実習生など、全員が溶接資格を取得している。

毎朝30分、在籍する熟練溶接士が講師となり座学を学び、隙間時間で溶接を練習し、今年5月に同社では、在籍していた4人の溶接士に加えて、残り5人の計9人全社員が溶接士となった。

 溶接特化戦略のメリット

江渕工業所で代表を勤める江渕修社長は「全員溶接士を名乗れるようになるのは苦労の連続だったが、溶接特化戦略には大きく3点のメリットがあった」と話す。メリットは以下だ。

1:年々採用が難しくなっている溶接士の確保
2:溶接作業に間接的に関わる他部署の作業者が溶接工程への理解を深め全体的な工数を削減
3:全員活躍といった文言だけではなく、全員が技能者だと胸を張って言えるようになった


特に、2の全体工数の削減には大きく寄与したという。

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左:全員溶接士戦略のメリットを話す江渕修社長
右:溶接に挑戦する江渕美香専務取締役

一般的にステンレスは、耐食性を生かすために、後加工で塗装をせず、溶接ひずみが目立ちやすい。そのため江渕工業所では、設計・曲げの段階で、なるべく目につく溶接箇所を減らすことを心懸けている。

そこで必要となるのが、図面設計者が「どの溶接作業が人目につきやすいのか」「難易度が高い部分はどこか」といった工程を把握していることだという。


同社の溶接士からは「溶接の難所を理解した設計で工数が削減できた」といった喜びの声があり、設計作業者からは「溶接の難所を痛感できたため、精度だけでなく全体工数を意識しながら設計作業に臨むようになった」といった意気込みなどが聞こえるようになった。


また、総務や経理な一手に引き受けてきた江渕美香専務取締役は、自身が溶接資格を取得したことで、「最も加工に縁がなかった未経験者の私が溶接資格を取得できたという事実は、定期的に受け入れているインターン学生に伝えると、『自分も技能者になれるかもしれない』と目が輝く」という。 

同社では一連の加工を自社で行うため、現時点でも、精度不良の手戻りが約0.02%と極めて低い。

江渕社長は「全員が有資格者となった今、技能者の手作業が最も多い溶接工程の不良を早期で見つける事例も増え、より手戻りが低減するだろう」と展望を話す。


近年、深刻な人材不足に悩むものづくり業界では、女性活躍、外国人技能実習生活躍といった文言を目にしない日はない。しかし、具体的にどのように活躍するのかと問われる場面で、「全員が技能者だ」と胸を張って言える同社から始まる、町工場のダイバーシティには胸躍る。

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