佐賀県の女子大会制した溶接士 (株)戸上電機製作所 室響さん  「工場はもう3Kじゃない」

技能者
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 佐賀県の女子溶接技術競技会を制した室さん

1925年より国内の電気を安定供給するための設備「高圧制御機器」などを軸に、事業を展開してきたメーカー、(株)戸上電機製作所(佐賀市大財北町、戸上信一社長)。

同社は技能教育にも定評があり、事実、昨年11月に開催された「佐賀県女子溶接技術競技会」の被覆アーク溶接の部を制したのは、同社の室響さんだ。

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佐賀県女子溶接技術競技会の表彰式

今回のWelding Mateでは、そんな室さんに溶接士になった理由や、溶接事業について思うことを尋ねた。

 溶接士になった背景

両親が製造業に従事していたため、深い考えがあったわけではありませんが、工業高校に入学することにしました。

そして、3年生の時に、たまたま佐賀県溶接技能競技会の高校生の部に出場することになりました。

溶接の競技会では、優勝・入賞といった立派な結果を残すことはできませんでしたが、「溶接競技会に参加したこと」は、確実に、就職先の一つとして溶接事業所という選択肢を、私の脳裏に刻んだのだと思います。

結果的に、通える距離で仕事を探していた私は、近所では比較的、知名度が高い戸上電機製作所に就職。

溶接士になる道を選びました。

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戸上電機製作所の本社工場

 溶接競技会を振り返って

就職する前から薄々は感じてはいましたが、戸上電機製作所だけではなく、県内にも、おそらく国内で、女性の溶接士の数は少ないのだと感じるようになりました。

そんな時に、先輩社員から「佐賀県女子溶接技術競技会」を勧められ、「これは、一般の溶接競技会よりも結果を残しやすいはず!」と考えて、出場を決めました。

昨年の大会は私にとって4回目の挑戦で、念願の優勝を果たすことができたのは、とても嬉しく思っています。

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溶接技能を磨く室さん

優勝することができたのは、職場の先輩が丁寧に溶接方法を指導してくださったおかげです。

溶接は、技能者の手感覚が重要となる技能のため、練習中は、一つひとつ先輩社員の指導を実践してみました。特に、自分だけの溶接姿勢を探すことからスタート。

溶接姿勢が決まると、溶接トーチを動かす手が、格段にスムーズに動くようになったのを覚えています。

私は日常的に、停電防止用の設備である「高圧制御機器」の内部部品などを溶接することが多く、扱う板厚としては2.3㎜や3.2㎜の鋼です。

溶接競技会で使用される素材は9㎜のため、かなり分厚く感じましたが、手を動かす速度を、会社での溶接よりも緩やかにすることで対応しました。

優勝に繋がったのは、日頃行っている溶接作業を、極端に変えるのではなく、姿勢など一部を調整し、手の動かし方で帳尻を合わせる工法が合っていたのではないでしょうか。

 溶接事業所はもう3Kじゃない

戸上電機製作所に入社することを選んで良かったと感じているのは、競技会などへの出場を積極的に応援してくれる点です。

特に、溶接競技会で使用する溶接機と同じモデルを、会社に導入し、溶接練習場を整備してくれたことで、私は溶接の練習に集中することができました。当社が協力し、背中を押してくれたことで、競技作品の精度が格段に向上したのは言うまでもりません。

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戸上電機製作所に整備された溶接練習場

近年、溶接技能者は減少する一方だと聞いています。

また、工場にある危険・汚い・きついの3Kイメージが、いかに就職先を決める時に高い壁になるのかも把握しているつもりです。

しかし、溶接士になってみて、溶接作業は防護服などを用途を守って装着すれば、危険なことはほとんどありません。また、当社では溶接練習場を整備したこともあり、比較的、作業環境はきれいに整頓されています。

つまり、私にとって、汚い・危険の2Kはなくなりました。

これから溶接士を目指す人に伝えたいのは、最後のKである「きつい」は、少なからず存在すると思いますが、溶接技能は、それを凌ぐだけの魅力があるということです。

触れた時間、練習した時間に応じて、着実に上達していくのが自身で把握できるのは、溶接が持つ大きな魅力なのではないでしょうか。安心して溶接の業界に飛び込んできて欲しいと思います。

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