見習い溶接士の心意気 (株)渡辺建鉄工業 髙梨美香さん(溶接ニュース2024年3月5日号より)
人手不足が深刻化する中、工場で溶接作業を行う女性の姿を見かける機会が増えてきている。
同様に、建築工事現場でも溶接女子が活躍するケースは増加しており、2023年5月に、Mグレードの鉄骨ファブリケーター、株式会社渡辺建鉄工業に入社した髙梨美香さんもその一人だ(Mグレードとは、国土交通省が定める鉄骨ファブリケーターの5段階評価の上から3番目)。
渡辺建鉄工業の溶接作業の特徴は、難易度の高いとされる物件を中心に受注していること。具体的には、現場ごとに環境が異なるため、工場内での作業よりも難易度が高いとされる、「出張工事」での溶接作業を伴う物件の割合が高い。
現在、そんな渡辺建鉄工業で、見習い溶接士として奮闘する髙梨さんに、溶接の魅力や将来の目標などを聞いた。
2023年の5月から溶接士として働いている。学生時代の先輩に誘われて入社したため、もちろん、溶接の仕事は初めだ。
そもそも、私が現場で働く切っ掛けになったのは、先輩社員を見て「格好良い」と感じたからだ。その先輩は鳶(とび)職人で、高所などの危険をものともせず、建設現場で颯爽と働く姿にビビっときた。
「女の子には危ない仕事じゃないか」と、親や友人には心配されたが、今の工事現場は心配するほど労働環境が悪いわけではない。
例えば、ほとんどの現場でトイレは男女別になっており、作業服も女性サイズの服を買うこともできる。工事現場で女性の姿はまだ珍しいが、性別を理由に、せっかく興味を持った現場職を選ばないことは、損だ。
溶接は初めてだが、前職でもグラインダーを扱っていたため、アークやスパッタなどの火花への恐怖心はなく、スムーズに作業に慣れることができたと思っている。
一つだけ苦労した点があるとすれば、溶接ワイヤの交換だ。ワイヤの重量には舌を巻いた。しかし、「これほどの重量とは!」と思っていたのも束の間、仕事に励むうちに筋肉が付き、身体が慣れてしまった。人間、慣れれば、何でもできるもののようだ。
また、溶接作業が仕事の中心である私は、溶接ワイヤ以外の重量物を運ぶことがほとんどない。家族、友人、当時の私が想像するよりも、鉄骨ファブリケーターの仕事に重労働はなかった。
最近感じているのは、溶接作業は奥が深い。一見、簡単そうにみえるが、やってみると難しいところがたくさんある。
溶接技能はその日の健康状態や気分にも左右されるため、昨日上手くできても、今日も上手くいくとは限らない。そして、たまに「凄くきれいなビードが引けた」と思っていても、先輩社員の方が遙かに上手だとびっくりする日も少なくない。
溶接に奮闘する高梨さん
今私が、一人前の溶接士を目指して、取り組んでいるのが溶接資格の取得だ。3月には、試験を控えている。
溶接だけではなく、玉掛けなどの資格も取得しなければならない。デスクワークより、現場で身体を動かしている方が好きだが、試験で緊張せずにトーチを動かすことができるか心配だ。
まずは「現場で認められる一人前の溶接士」を目指す。さらに、長く残る建築物を手掛けて、街中で自分が溶接したビルなどを見て、誇りに思えるような仕事がしたい。