OB・教諭・学生が一丸となって溶接コンクールへ 向の岡工業高校 (溶接ニュース2024年2月20日号より)

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 溶接業界で注目される向の岡工業高校

溶接業界で、常に注目を集めている向の岡工業高校。

理由は神奈川県の高校生溶接コンクールで、過去、多数の優勝者を輩出していること。現在2連覇していることに加えて、教師陣だけでなく、OBが応援に駆け付けて、一丸となってコンクールに臨む姿にもある。

1月20日に開催された神奈川県高校生溶接技術コンクールの現場から、同校からの参加選手と、応援に駆け付けたOBの大塚公輝さんに話を聞くとともに、応援に駆け付けることはできなかったがコンクールに向けて後輩の溶接指導にあたってきたOBの山川未浩さんからコメントをいただいた。

神奈川県高校生溶接コンクールの様子.JPG

神奈川県高校生溶接コンクールの様子

 参加選手の声

■松本春樹選手(3年生、表紙画像1番右)


将来の夢は建築機の操縦者だ。友人や先生からは「せっかく練習を続けてきたのに、溶接士にはならないのか」と驚かれるが、溶接士という選択肢も考えた上で、悩んだ末に決めたことなので、迷いはない。

溶接に取り組んできて本当によかった。それは、「私は溶接ができる」と胸を張って言えるだけの自信が付いたことだ。本気で取り組んだからこそ、溶接士になるか、従来からの夢であった操縦者になるかを、天秤にかけて悩むことができた。選択肢があったからこそ、「自分で選択した職業だ」と今は言い切れる。

何もなかった私に「溶接がうまい人」や「部長」といった称号をくれた溶接技術。

今回のコンクールで、もし私が優勝できたとしても、現在3年生の私は関東甲信越大会に進むことはできない。しかし、当時2年生だった私の前に、当時3年生の山川先輩が立ちはだかった時のように、私も後輩の壁として出場を決めた。優勝は目標ではなく、先輩としての義務だと思っている。

■中澤咲成選手(2年生、表紙画像の右2番目)

1年生として入学した時に、山川OBが3年生、松本選手が2年生だった。振り返ると、高校生とは思えない「職人っぽさ」を2人からは感じることが多く、そんな先輩たちと溶接をしている時間は、とても楽しいものだった。

3月には卒業となる松本先輩は、本当に溶接がうまい。ビード外観にはほれぼれすることも多く、溶接を練習すればするほど、松本先輩の溶接の腕に驚くことが増えた。

今回、出場選手している参加選手で、最大のライバルは当然松本先輩だ。安心して、卒業してもらえるようにベストを尽くした。今回の大会では、初層での裏波溶接は思い通りだったが、学校で使う溶接機とは設備が違うため、微妙な電流の違いに戸惑うことも多かった。

■濵井颯太選手(1年生、表紙画像の右3番目)

溶接トーチを握って2カ月だ。最初は何をする作業なのかもわからなかった。そんな自分に対しても、先生、先輩は熱心に溶接の勘所を教えてくださったので、少しだけ溶接について把握できたと思っている。


コンクールに向けては、とにかく、「外観だけは綺麗に見えるように」と調整を行ってきた。競技中は、通常3層のビードで作品を仕上げる選手が多い中、私は開先(溶接を行う時に設ける金属板のくぼみ)が埋まらなかったため、急遽5層盛りに変更した。作業中に、臨機応変に工程を変更できたのは、先生、先輩の溶接をいつも間近で見てきたからだろう。

■大塚公輝さん(OB、表紙画像の左2番目)

先生だけではなく、OBが積極的に溶接指導に駆け付ける高校は、多くはないのではないだろうか。卒業後も、先生から誘っていただき、後輩と溶接を練習する機会があることを大変嬉しく思っている。


もし、コンクール出場経験者と触れ合うことがないと、コンクールに参加する学生は、「何もわからない状態」で本番に参加しなくてはならない。だからこそ、先生だけでなく、先輩やOBが、脈々と溶接技能を伝承していく習慣は素晴らしいものだ。


また、こういった技能伝承方法は、長年、向の岡工業高校が溶接と向き合ってきた結果だと考えている。今出場している選手や、今後コンクールに出場する選手にも、是非、次の世代に繋いでいってほしい。

■山川未浩さん(OB、表紙画像なし) 

23年度の大会で優勝し、卒業したため、関東甲信越大会は、2位になった後輩の松本選手に譲った。大学への進学を希望し、現在は大学生だ。大学進学の魅力は複合的にものづくりを深く勉強できるため、工業高校で習った技術を「使う」だけでなく「メカニズム」を把握することができる。


一方で、少し寂しく思っているのは、溶接といった技能に費やす時間がほとんど取れないことだ。高校時代に溶接技術を磨いて私としては、技能に触れる時間が少ないことに少々の寂しさを感じている。

後輩に溶接指導をする時間は、私にとっては、溶接技術を思い出す瞬間でもある。後輩が溶接と向き合う姿勢をみると、ものづくりの魅力を再確認できるのも嬉しい。今回のコンクールも後輩には良い結果を残して欲しい。

自身の作品を見て話し合う向の岡工業高校のメンバー.JPG

自身の作品を見て話し合う向の岡工業高校のメンバー

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