二ノ宮製作所 国際インターンシップで人材難超える(溶接ニュース2023年11月14日号より)
近年の溶接事業所は人手不足が喫緊の課題だ。
人手不足の背景もあり、外国人、身体的なハンデを持つ人材などが活躍できるフィールドを整えていくダイバーシティ経営への注目度が工場している。これは、SDGs
そんな中、人材の多様性獲得に注力している1社が、埼玉県秩父市にある二ノ宮製作所(二ノ宮紀子社長)だ。フィリピン、インドネシア、ベトナム、ミャンマーといった複数国籍に加えて、重度の聴覚障害や脳性麻痺というハンデを背負った作業者など、幅広い人材が活躍する同社の事業を取材した。
溶接士をはじめとした技能者を競争力とする多くの溶接事業所。昨今のものづくり業界は、慢性的な技能者不足が大きな課題だ。
一方で、同社では国境を越えた人材雇用、身体的なハンデを持つ重度障害者の活躍など、習熟した技術力を進化させる傍らで、多様性を広げることで人材難も解決している。同社の、これら取り組みは、世界150ヵ国以上が参加したサミットで決定された指標「SDGs(Sustainable Development Goals)
埼玉県秩父市にある二ノ宮製作所は、各種産業向けに金属筐体を製造する溶接事業所だ。半導体製造装置の筐体を軸に、自動車部品の検査装置の筐体、銀行のバックヤードで使用される装置類の筐体といった、幅広い産業で使用される金属筐体を手掛けている。同社が強みとしているのは、ブランク、切断、折り曲げ、溶接、2022年からは洗浄、塗装、組立工程まで、ワンストップで提供できる点にある。
素材としては2.3㎜程度の鋼溶接が約6割、1㎜程度ステンレス溶接が約3割、残りがアルミなどで、比較的薄板加工の依頼が多い。約60人が所属する同社の製造部で、溶接士は20人程度で、ティグ溶接、ハンディタイプのファイバーレーザ溶接、テーブルスポット等を駆使して、各種筐体を手掛けている。
SDGsと聞くと、国内では環境負荷低減への施策の印象が強いが、「人や国による不平等をなくす」「飢餓、貧困をなくす」といった、多様性を強調した指標も多い。同社でも、作業者一人ひとりが電子パッドを持ち作業工程を3Dデータで確認しながら、より高精度な加工をペーパーレスで行うといった環境負荷低減には着手している。しかし、同社におけるSDGsは、フィリピン、インドネシア、ベトナム、ミャンマーと多国籍に外国人従業員が25人勤務していることや、聴覚に重度な障害を持つ従業員が活躍しているといった、多様性での注目度が高い。
同社の外国人技能者雇用の方法としてユニークなのが、一般的な、技能実習制度を活用した雇用だけでなく、現地の大学法人と提携した「国際インターンシップ」で学生を受け入れている点だ。
二ノ宮社長は「2014年にフィリピンを視察する機会があり、若く活気ある国に衝撃を受けた。また、フィリピンでは、エンジニアがドクターなどと同等の格付けで、日本のものづくり技術を勉強する場を渇望する学生が数多くいることを知った。そこで、現地大学法人(マプア大学)と協定を結び、国際インターンシップとして学生の受け入れを開始した」と当時を振り返る。
インターンシップの魅力は、技能実習制度よりも短期間で学生として来日できる点、来日した学生は日本での研修期間で単位を取得できるため卒業への足かせにならない点、一部の学生は卒業後に日本での就業を希望する点など。フィリピンでは溶接工学を勉強することはできても、現状では、高額な溶接機で、実際の溶接作業を学生が経験することは難しい。
インターンシップ制度は現地大学法人、学生、同社にとって、それぞれにメリットがある。二ノ宮社長は、「当社もインターンシップ制度のおかげで、人手不足への不安が大きく解消された。また、数年後に、国内外の超大手企業が次々に、マプア大学でのインターンシップ制度を導入していった。そのことからも、優秀な人材を求める企業にとっては大変魅力ある仕組みであると自負している」と話す。
画像:同社で活躍する国際インターン生のヨビレナルドさん