神奈川県綾瀬市で溶接技能競技会 修業と実戦をセットで行うため職人が急成長(溶接ニュース2023年10月31日号より)
「実戦経験がない」「現場では通用しない」「実社会は厳しいものだ」など、修業と実戦が異なることを伝える言葉を、目にすることが多い。つまり、修業と実戦はセットになってこそ、本人の実力になるというわけだ。
そんな実戦主義の、修業と実戦を、溶接分野で行うことで、職人を育成している街が、神奈川県の綾瀬市だ。大小400企業ほどの工場が軒を連ねる綾瀬市では、ものづくりに欠かせない溶接技能に街ぐるみで注目している。
そんな綾瀬市では、2018年から、溶接塾で溶接士を鍛え上げて、溶接競技会で実力を試すという超実戦の技能教育のセットを開始。2023年10月16日に開催された綾瀬市の溶接競技会「あやせ技能五輪」を取材した。
神奈川県の綾瀬市役所・工業振興企業誘致課は10月16日に「2023年度あやせ技能五輪」を開催。18年から6回目の開催となる今回は、市内5企業の7人が参加し、炭酸ガスアーク半自動溶接の技術を競った。結果発表と表彰式は、11月6日に綾瀬市商工会議所で開催される予定だ。
同競技会が特徴的なのは、希望者は、工業振興企業誘致課と市内にある溶接事業所の大場工業所が共同で開催している溶接教室「工匠塾」で全6回の溶接プログラムを体験し、その後、競技会で実力を試すことができる点だ。「修業」と「実践」を連続して体験できるため、短期間で溶接士の技術力を飛躍的に向上させることができるという。
この競技会への参加資格は市内企業の溶接業務経験が5年以下の中小企業の社員であること。競技内容は合計30分で準備と溶接を行い、会場となった大場工業所の大場洋美会長と中小企業診断士が審査するというもので、外観・強度・ビード・浸透探傷検査などで評価していく。使用するのは板厚9㍉の鋼板だ。
今回、工匠塾を卒業して競技会に臨んだのは、市内にある野口工業の深谷翔選手と、栄和産業の萩原大空選手の2人。両選手は、大場工業所の大場洋美会長のもとで溶接指導を受け、競技会に臨む。
競技会当日、深谷選手は「工匠塾では、会社でほとんど触れることがないティグ溶接について勉強した。工匠塾がユニークなのは、一定、電気の合わせ方、設備の使い方を把握した後は、極力それを変更せずに勘所を育む指導方法であることだ。溶込みや外観などを意識しながら練習し、溶接条件の設定方法ではなく勘所を研ぎ澄ますことができる。今回の一連の取り組みで、溶接士として成長できたと感じている」。
萩原選手は「日常的な溶接作業では、先輩社員に教わった設定方法を変えずに作業を繰り返すという内容のものが多い。自身で設備の条件を設定し、変更しながら掴んだ勘所を忘れないように生かしたい」と話す。
同競技会の最優秀技能者(優勝)は、市長賞として賞状と綾瀬市の名産品詰め合わせ、優秀技能者(準優勝)には、綾瀬市商工会長賞として賞状とカタログギフトが贈呈される。毎年、上位2人の作品は本誌とともに、綾瀬市役所の展示ホールにて展示される。
当日、会場となった大場工業所には参加技能者の同僚や上司が応援にかけつけ、「優勝できるぞ」「頑張れ」などの声が響きわたり賑わいを見せた。同イベントは官民が連携していることや、近隣企業の取組みを知ることができるため、特に近隣町工場からの注目度は高い。
画像:大場会長を囲む参加選手たち