フジワラテクノアート 特化則改正への早期対応で溶接作業者の安全守る(溶接ニュース2023年10月10日号より)

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特化則改正に早期対応した溶接事業所

厚生労働省より「労働安全衛生法施行令、特定化学物質障害予防規則(特化則)等の改正」が施行されたことで、多くの溶接事業所では、その対策に尽力している。岡山市北区にある溶接事業所、フジワラテクノアート(藤原恵子社長)もその1社だ。同社では、習熟した溶接技能を「競争力」の一つとして捉えているため、溶接作業者が安全に作業できる環境は欠かせないという。同社の特化則改正への対応について取材した。

溶接作業者の安全を守ることが企業競争力の維持にも繋がる

フジワラテクノアートは、醤油、味噌、清酒や焼酎といった醸造食品を支える醸造機器のメーカーで、国内外から多くの依頼が寄せられている。食品関連の機器は、人の口に入るものを製造するため、極端に耐錆性が求められる。そのため、同社で手掛ける機器は、ほぼ全てが耐錆性に強みを持つステンレス製だ。同社で製造する醸造機器は大型なものが多く、20m以上の構造物も少なくない。大型構造物は強度が求められるため、同社で溶接するのは板厚25mm以上の厚板ステンレスも頻繁にあり、駆使する溶接技術はマグ溶接とティグ溶接。工場作業者32人のうち11人の溶接作業者が高難度な溶接作業に対応している。

そんな溶接技術が競争力の一つである同社では、多くの溶接事業所が頭を抱えているフィットテストへの対策にも早い段階で着手、注力している。フィットテストは厚生労働省より「労働安全衛生法施行令、特定化学物質障害予防規則(特化則)等の改正」が施行されたことにより、屋内での溶接作業がある溶接事業所では義務となるもののため、対策は必須である。一方、急な法改正に対して「対策した事例」は数少ないため、近隣事業所を真似することは現段階では難しい。

特化則改正への対応において、最大の難関は大きく二つで「作業環境測定」と「フィットテスト」だ。屋内での溶接作業を含む溶接事業所は、工場内の溶接ヒュームの濃度を作業環境測定により把握し、溶接士が溶接ヒュームを大量に吸い込まないために、規定されたレベルの呼吸用保護具を装着すること(作業環境測定)が既に義務化されている。

フィットテストでは、専用のフィットテスターを使いながら、各溶接士が正しく呼吸用保護具を装着できているのかを年に1回確認することが求められる。1人につき15分程度で合否を判断する作業となり、同社で勤務する溶接作業者11人は全員フィットテストを2024年3月31日までに実施することが求められている。

多くの溶接事業所がフィットテストへの対応で頭を抱えるのが、フィットテスターが100万円以上の投資となる点だ。そのため、フィットテスターのレンタル事業所や、フィットテストを一括して請け負うサービス事業所などの動きが活発化している。そんなフィットテストにおいて、同社では柴田科学製のフィットテスター「MT―05U」の購入に踏み切った。

同社製造部の林克己部長は、「多くの溶接事業所がフィットテストで頭を抱えるのは、フィットテスターが高額なことに加えて、溶接士が複数在籍する場合、全員が社内にそろっている日程が確定しきれないことが挙げられるだろう。当社でも現場に出向いている溶接士が多いため、日程を定めるのが困難であり、フィットテスターの購入を選択した。レンタルの方が1回の単価は安価だが、従業員の安全に関わることなので、二の足を踏むことはできない。また、実機が常に社内にあれば、個々の溶接作業者を1人ずつフィットテストすることができるため、安心して対応することができる」と話す。

同社で手掛ける大型厚板ステンレス構造物は、20m以上の構造物が多い上で、誤差2ミリ以下といった、1万分の1の精度が求められる。

ひずみが発生しやすいステンレスを、分厚いものだと60mm以上にもおよぶ板厚で溶接する場合、同社では1箇所に7層以上溶接することなどがある。それを1万分の1の誤差で成形するためには、「溶接した箇所の逆側から同様の溶接を行ってひずみを打ち消し合う」「逆側に、あえてひずませたステンレス板を溶接し、ひずみを生かして直線とする」といった一般的な工夫だけでは到達できない。

林部長は、「角部分を溶接すると、ひずみやすく修復が難しくなるといった構造を理解し、設計などの前工程から数多く工夫することが大切だ」と話す。

前後工程への知見と、習熟した溶接技能を有するだけの溶接士は、希少性が高いだけに、同社のように、「特化則への対策」「溶接士が安全に作業できる環境」を積極的に整えていくことは、競争力維持にもつながる。

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